Column


中日ドラゴンズ沖縄キャンプ2020

 

 

ご縁で中日ドラゴンズの関係のお仕事を少しだけさせていただいています。 スポーツ選手の引退後を考える名古屋セカンドキャリア研究会というものの関係で,中日ドラゴンズベースボールアカデミーに関与させていただいたりしております。

https://www.2nd-career.net/

 https://www.kidsdragons.net/

  その関係で,中日ドラゴンズの沖縄キャンプを訪問させていただく機会があります。 もともと少年ドラゴンズというものに加入するほど野球が好きで,今でも草野球に参加するほどです。 プロ野球については,あまり関心がなくなっていましたが,キャンプは,少年時代の気持ちを思い出すようなノスタルジックで大変良いものです。 ナゴヤドームでの観戦では味わうことのできない,バッティング,キャッチングの音のみならず,選手たちの気合いの声まで聞こえてきます。 公式戦では見ることのできない,将来のスター候補生の努力や裏方さんの頑張りなども間近で見ることができます。 選手たちも楽しんで練習をしているように見えることもあり,ほのぼのして大変面白いです。 お時間のある方は,是非,キャンプを見に行くことをお薦めします。 中日ドラゴンズのキャンプを見に行く場合は,北谷だけでなく,読谷にも足を運ばれることを強くお薦めします。 北谷も牧歌的な雰囲気ですが,読谷はより素朴な感じで,大変見応えがあります。

https://dragons.jp/special/camp/

  今年は,北谷では,阪神タイガースとの練習試合をみることができました。 一枚目の写真は,名古屋セカンドキャリア研究会で,大変お世話になり,今年からコンディショニングコーチに復帰された三木安司コーチです。

読谷では,石川昂弥選手の新人離れした存在感や,岡林勇希選手のセンス溢れるバッティング,大島,平田両選手のレベルの高い動き,福谷投手のうなるようなストレートが印象的でした。 あまり注目されてないであろうところでは育成の石岡諒太がシートバッティングでホームランを打ってアピールしていました。同選手は何年か前のキャンプから注目しており,是非活躍してもらいたいと期待しています。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%B3%E5%B2%A1%E8%AB%92%E5%A4%AA

 

弁護士 水越 聡


もう結構以前の話題になりますが、大学のアメフトで故意に相手選手に怪我をさせようとタックルをしたのではないかという話題が大きく取りざたされたことがありました。私としては怪我をさせるために故意にやったことが許されることではないというのは当然だと思いますが、そんな話から近いようで遠いような雑感を書きます。

 

 

この議論の中では、スポーツは競争ではあるが、当然ルールに従ったものでなければならないという話がよく出ます。私も弁護士として至極もっともな話だと思いますし、何の異議もありません。

 

ただそうして考えてみたときに、スポーツにおいてルール違反(ファウル)だけど審判にうまくばれないようにやった行為をずる賢さとして賞賛されるような場面もあるように思います。特に日本人はそうした部分が足りないというような指摘もよく聞くところです。

サッカーでもユニフォームを引っ張るのは日常茶飯事なんだろうなと思えるほど相手選手のユニフォームを引っ張るシーンを目にします。私の友人はサッカーはユニフォームを引っ張ることがルールで許されていると勘違いしてました。

ルールの範囲内での競争だということを強調するのであればユニフォームを引っ張る行為は意図的にルール違反をしている行為なのですからもっと厳しいペナルティを課すべきなのではないかと感じます。もちろん怪我をさせる行為とは違うとも思いますが、その辺がどうも釈然としません。この発想が行き着くところまでいけばバレなければ何をしてもいいということになってしまいそうな気もします。

 

個人的には、勝利という目的のための小さなルール違反ならズル賢さのうちと割り切れません。よく、「弁護士は黒を白にする仕事なんでしょ。」とか、「法律の抜け穴を知りたい。」というような相談をされることもありますが、少なくとも私の中にはそういった発想はありません。この辺は弁護士の考え方によっても異なるところかもしれません。

弁護士 下出 太平


八百長は犯罪か

 

少し前のことですが、プロテニス選手28名が八百長をしていたことが判明したとの報道がありました。試合結果を操作して、犯罪グループの賭博に協力していた、ということのようです。

 

「プロ選手28人が八百長関与 テニス、スペイン当局捜査」

https://www.sankei.com/world/news/190111/wor1901110003-n1.html

 

八百長にはいろいろな類型があります。

1対1のスポーツ(テニス、相撲など)では、この報道のように、一方の意思により試合結果を操作することが容易です。1対1であれば、囲碁や将棋などでも八百長は可能です(もともと「八百長」の語源は、八百屋の斎藤長吉が囲碁でわざと負けた故事にあります。)。

多数対多数のスポーツ(野球、サッカーなど)では、選手1名の意思で試合結果を操作することが困難です。こうしたスポーツでは、審判を買収することや、特定の結果(1回表に四球が記録されるかどうか、など)を賭博の対象にしておいて、その結果を操作できる選手(投手など)を買収することが行われてきました。

いずれにしても、スポーツの価値を損なう行為であり、許されるべきではありません。

 

しかし、現在の日本法では、スポーツ一般において八百長をすること自体を罰する規定がないことをご存じでしょうか。

 

公営競技(競馬、競輪、競艇、オートレース)では、八百長は犯罪です。また、totoの対象となっているJリーグの試合でも、八百長は犯罪です。

一方、例えばプロ野球やBリーグ、大相撲などその他のスポーツについて、八百長をしても、それ自体は犯罪ではありません。

2011年、大相撲において八百長が行われていたことが発覚し大きな問題となりましたが、相撲協会が多数の力士や親方を処分したものの、逮捕者は出ませんでした。

古くは1969年から1971年にかけてプロ野球界を騒がせたいわゆる「黒い霧事件」においても、オートレースの八百長に関与していた野球選手は逮捕されましたが、プロ野球の八百長に関与していた野球選手は逮捕されませんでした。

冒頭の報道でも、欧州警察機関が捜査に乗り出したのは、八百長が行われていたからではなく、賭博が行われていたからです。

逆に言うと、賭博が一切行われない場合、八百長は犯罪ではありません。

こうした行為は、そのスポーツを統括する団体による処分や、世間からの非難の声によって、防止することになります。

 

では、いわゆる片八百長はどうでしょうか。対戦する選手間で話し合いや約束がなく、また賭博など外部の者の関与などもなく、片方の一方的な意思によってわざと負ける場合です。犯罪でないのは当然として、非難するべきでしょうか。

従前、大相撲では、7勝7敗の力士の千秋楽の勝率が異常に高い、といったことが指摘されたことがありました。その中には、対戦相手(すでに勝ち越し、負け越しが決まっている)が気を遣って星を渡した事例もあったかもしれません。

片八百長は、わざと負けた本人が公言しない限り、基本的に発覚することがありません。見ている側が「これは片八百長ではないか」と思ったとしても(場合によっては勝ちを譲られた側が勘づくことさえあるでしょう。)、あくまでも想像であり、わざと負けたことを立証することはできません。したがって、片八百長を非難することは不可能ともいえます。

古典落語「佐野山」では、横綱谷風が、全敗中の十両力士佐野山にわざと負ける場面が出てきます。重病の母親を抱える佐野山に多額の懸賞金が渡るようにしたもので、これが美談として語られます。

また、「接待ゴルフ」をした方、された方もいるでしょう。これも片八百長の一場面ですが、これは非難するべきでしょうか。

このように考えてくると、線引きは簡単なようでいて、意外と難しそうです。

みなさんは、どう評価するでしょうか。

 

 

弁護士 岡本 大典


プロ野球選手が減額制限を超えて減額された年俸で契約した?

 

第1 減額制限を超えて減額された年俸が許される理由

 

プロ野球選手が減額制限を超えて減額された年俸で契約した。

そんな報道を目にすることがあると思います。

減額制限があるのにそれを超えて減額できるなんておかしいじゃないか,そう思いませんか。

 

答えは意外にも簡単です。

 

プロ野球選手とプロ野球球団との契約(「選手契約」)は野球協約の要請を受けて統一契約書というものを作成して行われます。

以下,野球協約(2018年度版,http://jpbpa.net/system/contract.html)の条文とともに説明します。

第45条 (統一契約書)

球団と選手との間に締結される選手契約条項は,統一様式契約書(以下「統一契約書」という。)による。

 

第92条 (参稼報酬の減額制限)

次年度選手契約が締結される場合,選手のその年度の参稼報酬の金額から以下のパーセンテージを超えて減額されることはない。ただし,選手の同意があればこの限りではない。その年度の参稼報酬※の金額とは統一契約書に明記された金額であって,出場選手追加参稼報酬又は試合分配金を含まない。

(1)選手のその年度の参稼報酬の金額が1億円を超えている場合,40パーセントまでとする。

(2)選手のその年度の参稼報酬の金額が1億円以下の場合,25パーセントまでとする。

 

※我々が認識する年俸は,統一契約書上「参稼報酬」とほぼ同義(細かいことを言えば,異なると思いますが,大体同じということです。)。

 

ここで「選手の同意があればこの限りではない」とあり,減額制限を超えて減額された年俸で契約する場合,選手がこれに同意しているから,何ら違反はないということになるのです。

 

 

第2 減額制限を超えて減額された年俸を拒否すると

 

減額制限を超えて減額された年俸を提示された場合,選手がこれを拒否したらどうなってしまうのか。

 

次にこのような疑問が生じます。

 

これを説明するためには,野球協約を理解する必要があります。

以下,説明しますが,実務に疎く,野球協約からだけでは不明な点も少なくないため,必ずしも実務と一致しない部分があろうかと存じます。その点をご留意ください。誤りがあればご指摘いただけますと幸甚です。

 

1 前提

(1) 選手契約の期間

何となく選手契約は,年単位で行われるような気がしますが,野球協約上どのように定められているのでしょうか。

 

第87条 (参稼期間と参稼報酬)

球団は選手に対し,稼働期間中の参稼報酬を支払う。統一契約書に表示される参稼報酬の対象となる期間は,毎年2月1日から11月30日までの10か月間とする。

 

ここから,選手契約の期間は毎年2月1日から11月30日までとする向きもあろうかと存じます。

 

しかしながら,統一契約書による契約は,球団による「保留権※」「保有権※」を発生させるものとされています。

※保留権(第67条第2項および第3項,第68条)

※保有権(第58条)

 

ここで保有権は,第58条から,他の球団と選手契約を締結することを妨げる権利であると解され,保留権は,第68条第2項から,他の球団と選手契約に関する交渉を行い,又は他の球団のために試合あるいは合同練習等,全ての野球活動をすることを禁止する権利であると解されます。

要するに,選手契約をした球団は,選手が他の球団と契約できないし,関わることができないようにする権利があるということです。

その意味で,選手契約の期間(効果)は,単純に10か月間に留まるものではないという特殊なものであるといえます。

 

(2) 選手契約の更新

第49条 (契約更新)

球団はこの協約の保留条項にもとづいて契約を保留された選手と,その保留期間中に,次年度の選手契約を締結する交渉権をもつ。

 

この条文から,どうやら上記保留権は,協約の保留条項にもとづいて契約を保留する権利であるともいえそうです。

上記の保留権の理解と合わせて分かりやすく言えば,保留権とは,球団が来年も契約するよう独占的に交渉する権利であると解されます。

 

第67条 (全保留選手名簿の公示)

毎年12月1日以前に,コミッショナーは,提出された全保留選手名簿を点検の上,毎年12月2日にこれを公示する。

任意引退選手,制限選手,資格停止選手,失格選手名簿に記載された選手の全保留選手名簿への記載は,連続2回とし,それ以後は,総合任意引退,総合制限,総合資格停止,総合失

格選手名簿にそれぞれ自動的に移記される。ただし,移記されたあともそれらの選手に対し保留球団は保留権を持つ。

 

第68条 (保留の効力)

保留球団は,全保留選手名簿に記載される契約保留選手,任意引退選手,制限選手,資格停止選手,失格選手に対し,保留権を有する。

 

これらの条文からは,保留選手名簿というものに記載されると,球団はその選手に対して保留権を有するものとされていることが分かります。

 

以上をまとめると,球団は,保留選手名簿というものに記載することによって,選手に対する保留権をもつことになる。

その結果,球団はその選手と来年も契約するよう独占的に交渉する権利をもつということになります。

 

 

(3) 保留権,保有権の喪失

それでは,選手が上記の保留権,保有権から解放されるのはどのような場合でしょうか。

 

上記のとおり,保留選手名簿というものに記載されると,球団はその選手に対して保留権を有するものとされており,その反対解釈からして,保留選手名簿というものに記載されなければ,球団はその選手に対して保留権を有しないということになります。

その場合,保留権から解放されたといえます。

 

では,保有権についてはどうでしょうか。

第58条 (自由契約選手)

選手契約が無条件で解除され,又はこの協約の規定により解除されたと見做された選手あるいは保留期間中球団の保有権が喪失し又はこれを放棄された選手は,その選手,球団のいずれかの申請に基づいて,又は職権により,コミッショナーが自由契約選手として公示した後,いずれの球団とも自由に選手契約を締結することができる。

 

ここから,「自由契約選手」というものになれば,保有権というものから解放されることが分かります。

もっとも,保有権が喪失する場面について,この条文だけではよく分かりません。特に「保有権が喪失し」とありますが,どのような場合に保有権が喪失するのかは不明です。

保有権という文言自体がこの条文にしか登場しませんので,理解不能であるとならざるをえないようにも思えます。

 

ところで,保有権から解放された「自由契約選手」という文言に着目して調べると,以下の条文が見つかります。

 

第69条 (保留されない選手)

支配下選手が契約保留選手名簿に記載されないとき,その選手契約は無条件解除されたものと見做され,コミッショナーが12月2日に自由契約選手として公示する。

 

この条文からして,「契約保留選手名簿に記載されないとき」=「自由契約選手」≒保有権から解放と推認することができます。

 

要するに,契約保留選手名簿に記載されないときには,保有権,保留権から解放されることになるようです。

 

2 以上の知識を前提に,減額制限を超える減額が為された年俸を提示された場合,選手がこれを拒否したらどうなってしまうのかについて検討してみます。

当該選手は,保留権の解放を受けていない「契約保留選手」にあたります。

その結果,当該選手は「自由契約選手」のように自由に他球団と交渉することはできず,当該球団と交渉せざるをえません

 

第74条 (契約保留期間の終了)

契約保留が全保留選手名簿公示の年度の翌々年1月9日まで継続されたとき,その選手は資格停止選手となる。

球団が契約保留選手の保留権を喪失※し又は放棄した場合,契約保留期間は終了する。球団が保留権を放棄したときは,球団はその選手を全保留選手名簿から削除し,コミッショナーに自由契約選手指名の公示を申請するものとする。

 

交渉の結果,球団側が保留権を放棄すれば,自由契約選手として,他球団と交渉できることになります。

※保留権を喪失する場合の具体例としては,任意引退があると思われます。ただ,その場合には,復帰するには,第78条1項により,引退時の球団でなければならないとされるので,選手の意思で自由契約選手になることができるわけではありません。

 

 

そうでない場合には,契約保留選手として,不安定な立場のまま過ごすことになります。

 

明確な定めがありませんが,契約保留選手は,契約を締結していないという扱いですので,試合には出場することができないものと思料されます。

 

第81条 (出場選手)

球団は,選手をセントラル野球連盟又はパシフィック野球連盟の年度連盟選手権試合に出場させるためには,所定の手続きを経た上,出場選手※として所属連盟に登録しなければならない。

※出場選手の要件について曖昧

 

契約保留選手については,以下のとおり一定程度の支払いが為されるものの,十分ではないと思われます。

 

第71条 (契約保留手当)

契約保留選手に対する保留が,翌年1月10日以後に及ぶときは,1月10日から第74条(契約保留期間の終了)に規定する保留期間の終了,又は第94条(参稼報酬調停)による参稼報酬調停申請の日まで,その選手の前年度の参稼報酬の365分の1の25パーセントを1日分として,契約保留手当が経過日数につき日割計算で1か月ごとに支払われる。なお,選手契約が締結されたときは,既に支払われた契約保留手当を参稼報酬より差引くものとする。また支払に際しては,上記の方法で算出した金額に消費税及び地方消費税を加算した金額をもって行う。

 

 

そこで,このような場合には,参稼報酬調停による必要があることになります。

 

第94条 (参稼報酬調停)

次年度の選手契約締結のため契約保留された選手,又はその選手を契約保留した球団は,次年度の契約条件のうち,参稼報酬の金額に関して合意に達しない場合,コミッショナーに対し参稼報酬調停を求める申請書を提出することができる。

 

 

以上より,設例に対する答えは,参稼報酬調停を余儀なくされる可能性がある(当然その過程で球団が譲歩して制限内に収まる可能性もありますが。)というものです。

 

 

もっとも,設例のような減額制限を超えて減額されているようなケースでは,調停を経れば,減額制限の範囲内で参稼報酬が定められることは明らかです。

 

それでも選手が合意をするのはなぜなのでしょうか。

 

第3 雑感

 

上記を検討するなかで,野球協約,統一契約書を分析しましたが,大変複雑で,容易に理解し難い部分も少なくありません(もっとも,これらは,先達の努力によって分かりやすくなっているものではありますが。)。

そして,大きな特徴として保留権(保有権)という一般的な契約からは馴染みがない概念があります。

保留権について調べるとその導入について背景があり,また,今日では保留権の不具合を解消するためにフリーエージェント制度が導入されるに至るなど,伝統と改革が垣間見えます。

 

このような背景事実からして本コラムは極めて稚拙なものかと存じますが,折を見て,トレードやドラフトなどについても,野球協約を解きほぐしてみたいと思います。

長文にお付き合いいただきまして,ありがとうございます。

 

 

弁護士 水越 聡


この世からプール事故をなくすために

 

 

 平成30年6月9日に開催されました、一般社団法人日本スポーツ法支援・研究センター等が主催するシンポジウム「これで防げる!学校体育・スポーツ事故 繰り返されるプール事故から子どもを守る」に参加しました。学校プールの事故は、学校体育では必ず行われる水泳授業の際に起きうるもので、誰にとっても身近である一方、事故が発生してしまうと重篤な結果を生じやすいという特徴があります。シンポジウムでは、逆飛び込みの危険性や安全な水深を提言するとともに、水中の中から飛び込みをする安全な練習方法等の提言がされていました。また、プールの監視について死角等ができてしまう限界を前提としつつ、その死角をコントロールする方法(どのような場合に死角が生じるかを知る)、場合によっては監視システム等のテクノロジーを導入することも必要になるという提言がされていました。確かに、学校におけるプールの監視体制については、人員の確保等に限界があることは間違いありません。とはいえ、学校体育において水泳の授業をなくすわけにもいきません。このバランスをどのようにとっていくのかは、非常に難しい課題であると痛感しました。

 

 

弁護士 金刺 廣長


社会人サッカー訴訟に関する考察

 

 

1 はじめに

サッカー社会人4部リーグの試合中に足を骨折した男性(以下「原告」という。)が、接触した相手チームの男性b(以下「被告b」という。)及び被告bが所属していたチームの代表者である男性c(以下「被告c」という。)に対して、損害賠償請求訴訟を提起したところ、東京地裁が、被告bに対する請求を247万4761円の範囲で認容し、被告cに対する請求を棄却したことが話題となっている。

筆者自身、現在、サッカーの社会人リーグでプレーしており、幼少期からサッカーに携わってきたことから、本件について、基本的な法的知識を確認した上で、私見を述べたいと思う。

 

2 事案の概要

東京地裁が認定した事実関係は以下のとおりである。

(なお、以下の事実関係は、あくまで第1審である東京地裁が認定したものであり、実際に起きた事実関係とは異なる可能性があることは付言しておく。)

・原告は、当時、サッカーの社会人4部リーグのチーム「d」のメンバーであった。

・被告らは、当時、同リーグに所属するチーム「e」のメンバーであり、被告cがチーム「e」の代表者を務めていた。

・「d」と「e」は、平成24年6月9日、サッカー場において対戦した。

・被告bは前半から出場し、原告は後半から出場した。

・試合の後半、「d」の選手が、カウンター攻撃を狙い、自陣右サイド奥(自陣側)から、自陣右サイド前方(相手陣側)に向かってボールを蹴りだした。

・自陣前方中央付近にいた原告は、右サイドに移動して、蹴りだされたボールに追いつき、右太腿でトラップし、自身の体よりも1メートルほど前方にボールを落とした。

・原告は、バウンドして膝の辺りの高さまで浮いたボールを左足で蹴ろうとして、軸足である右足を横向きにして踏み込み、左足を振り上げた。

・被告bは、カウンター攻撃を阻むべく、原告の方に走り込んでくると、その勢いを維持したまま、左膝を真っ直ぐに伸ばし、膝の辺りの高さまでつま先を振り上げるように突き出して、足の裏側を原告の下腿部の方に向ける体勢になった。

・ボールは、原告の左足が触れるよりもわずかに早く被告bの左足の左側面付近に当たってはじきだされた。

・被告bが伸ばした左足の裏側と(この被告bのプレーを「本件行為」という。)、原告の左脛部とが接触した(この接触事故を「本件事故」という。)。

・本件行為により原告が倒れたため、試合は一時中断され、原告は病院に救急搬送された。

・審判によるファウル判定、警告及び退場処分はなかった。

・原告は、本件事故により、左下腿脛骨及び左下腿腓骨骨折の傷害を負った。

・原告は、被告b及び被告cに対し、共同不法行為(民法719条1項前段)に基づき689万0854円の損害賠償金を請求した。

 

3 本件の争点

不法行為責任は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」(民法709条)ところ、以下、東京地裁の認定した争点のうち、被告bは原告の受傷について「故意」があるか、被告bは受傷について「過失」があるか、本件行為の違法性が阻却されるかについて検討する。

 

4 争点「被告bは原告の受傷について故意があるか」について

 故意とは

不法行為における「故意」とは、結果の発生を認識しながら、あえてこれをする心理状態であるとされている(大判昭和5年9月19日新聞3191号7頁)。

もっとも、「故意」といっても、いくつかのレベルのものがあり、一般的な理解としては、以下のとおり分類できる。本件に対応した具体例も記載するので参照されたい。

ア 結果が発生することを意欲している

故意あり(確定的故意)

e.g.被告bは、あえて原告に骨折等の怪我を負わせようとしていた。

イ 結果が発生する可能性を認識しながら、これを認容している

故意あり(未必の故意)

e.g.被告bは、このまま足を出したら原告が骨折等の怪我をするかもしれないと思ったものの、そうなったとしてもやむを得ないと考え、足を出した。

ウ 結果が発生する可能性を認識している

故意なし

e.g.被告bは、このまま足を出したら原告が骨折等の怪我をするかもしれないと思ったものの、そうはならないと考えた。しかし、原告は骨折してしまった。

 判決の概要

東京地裁は、「ボールは原告の前方1メートルほど離れた位置に落下しており、必ずしも原告がボールをコントロールしていたといえる状況にはないし、ミートしていないながらも被告bがボールに触れて弾き出していることに加えて、審判がファウルの判定すらしていないことなどから客観的に考察すれば、被告bがボールに対して挑んだのではなく、故意に原告の左足を狙って本件行為に及んだとまで断定することはできない。」と判示した。

 私見

東京地裁は、被告bが、上記のア「結果が発生することを意欲している」やイ「結果が発生する可能性を認識しながら、これを認容している」といえるレベルの心理状態ではなかったと認定したようである。

筆者としても、トラップした後のボールの位置が原告の体から1メートルほど離れていたこと、被告bが先にボールに触れていたこと等の事情に鑑みれば、足の裏を向けたことが危険ではあったものの、少しルーズになった状態のボールに対し、カウンター攻撃を阻むため、積極的にディフェンスをしたとも評価できることから、被告bが、あえて原告を骨折等の怪我を負わせようとか(上記のア)、そうなったとしてもやむを得ないと考えていた(上記のイ)とは断定できず、「故意」はなかったと判示していることは妥当であると考える。

ただ、東京地裁は「審判がファウルの判定すらしていないこと」を理由の一つとして認定しているが、社会人4部リーグの主審のレベルは、様々であり、なかにはサッカー経験や知識がほとんどないにもかかわらず、審判をしている者も少なからず存在していることから、この試合の主審のレベルが高かったことが客観的に証明されない限り、「審判がファウルの判定すらしていないこと」は事実としてほとんど参考にならないといえる。

 

5 争点「被告bは受傷について過失があるか」について

 過失とは

不法行為における「過失」とは、予見可能性を前提とした結果回避義務違反であるといわれている(大判大正5年12月22日民録22輯2474頁)。つまり、ある結果が発生する可能性を認識でき、結果発生を回避すべき義務があったにもかかわらず、その義務を怠ったことをいう。

本件でいえば、被告bは、原告が骨折等の怪我をする可能性を認識していたとすれば、足を出すことをやめる等の方法により、原告が骨折等の怪我を負うことを回避すべき義務が発生することとなり、それでも足を出したのであれば、「過失」ありと認定されることになる。

 判決の概要

東京地裁は、「被告bは、走り込んで来た勢いを維持しながら、膝の辺りの高さまでつま先を振り上げるようにして、足の裏側を原告の下腿部の位置する方に向けて突き出しているのであって、そのような行為に及べば、具体的な接触部位や傷害の程度についてはともかく、スパイクシューズを履いている自身の足の裏が、ボールを蹴ろうとする原告の左足に接触し、原告に何らかの傷害を負わせることは十分に予見できたというべきである。

 そうであれば、無理をして足を出すべきかどうかを見計らい、原告との接触を回避することも十分可能であったというべきであって、少なくとも被告bに過失があったことは明らかである。」と判示した。

 私見

サッカーにおいて、本件のような、敵チームの選手が、バウンドしたボールを蹴ろうとした瞬間に、ボールに先に(少しでも)触ることで、ボールを蹴らせないようにする行為あるいはボールの勢いを弱め方向を変えようとする行為は、珍しくなく、必ずしも反則行為になるわけではない。問題はその行為の態様である。

東京地裁の認定した事実によれば、被告bは、ボールを蹴ろうとした原告に対し、足の裏を相手に向けた状態で、勢いよく接触しており、サッカー競技規則12条に違反する反則行為であると考えられる。

原告は、おそらく、後ろ向きの状態(自陣のゴールを向いた状態)で、ボールをトラップしており、相手陣の方向の状態はほとんど見えていなかったのではないだろうか。ボールを保持した状態で、視野が狭くなっている原告に対して、足の裏を相手に向けた状態で接触したとすれば、原告にとっては見えないところから、足の裏が出てきたこととなり、このような場合、当然ながらディフェンダーの存在を意識せず、ボールを蹴るために足を振りぬくことになり、同時に相手の足の裏(スパイクの裏)を強く蹴りつけることになることから、その意味でも本件行為は危険な行為といえる。

被告bとしては、原告とボールの両方が見えていた状態であり、これに東京地裁の認定した事実関係を考慮すれば、本件行為によって、原告が負傷する可能性は認識していたと評価することが妥当であり、東京地裁の判示のとおり、「過失」があるとの認定は妥当であると考えられる。

ただ、原告が、ボールをトラップする前に、後ろを振り返る、体の向きを半身にするなどして視野を確保していれば、被告bの存在に気づくことができた可能性があり、この問題は過失相殺の問題として検討する必要がある。

 

6 争点「本件行為の違法性が阻却されるか」について

 違法性とは

不法行為責任に基づく損害賠償請求権が認められるためには、その行為に違法性があったことが必要であるとされている。

民法上の明文の規定はないものの、不法行為責任について、刑法35条を参考にして、正当な業務により行われた行為には違法性がない、権利の処分権限者である被害者自身が引き受けた(受忍した)危険が現実化した場合には責任を免れることから違法性がない等と説明されている。

 判決の概要

東京地裁は、サッカーにおける違法性の一般論として、「相手チームの選手との間で足を使ってボールを取り合うプレーも想定されているのであり、スパイクシューズを履いた足同士が接触し、これにより負傷する危険性が内在するものである。

 そうであれば、サッカーの試合に出場する者は、このような危険を一定程度は引き受けた上で試合に出場しているということができるから、たとえ故意又は過失により相手チームの選手に負傷させる行為をしたとしても、そのような行為は、社会的相当性の範囲内の行為として違法性が否定される余地があるというべきである。」と判示した。

その上で、本件行為について、「(サッカー)競技規則12条に規定されている反則行為のうち、」「退場処分が科されるということも考えられる行為であったと評価できる。」「相手競技者と足が接触することによって、打撲や擦過傷などを負うことは通常あり得ても、骨折により入院手術を余儀なくされるような傷害を負うことは、常識的に考えて、競技中に通常生じうる傷害結果とは到底認められないものである。」「以上の諸事情を総合すると、被告bの本件行為は、社会的相当性の範囲を超える行為であって、違法性は阻却されない。」と判示した。

 私見

 東京地裁は、主に、退場処分が科せられるほど危険性の高い行為であったこと、原告がサッカーをする上で、骨折により入院手術を余儀なくされる程度の傷害を負うことまでは引き受けていないことを理由として、本件行為の違法性は認められると判示していることから、以下、ⅰ、ⅱに分けて私見を述べる

ア ⅰ「退場処分が科せられるほど危険性の高い行為であったこと」について

被告bの本件行為は、危険な行為であったとはいえるものの、それが「退場処分を科せられるほど危険性の高い行為」であったか否かについては、動画を検証する以外、これを判断することは難しい。

本訴訟では、動画ないし画像と思われる甲22号証、乙3号証が提出されているが、筆者はこの内容を確認していないことから、本件行為が「退場処分を科せられるほど危険性の高い行為」であるか否かを軽々に述べることはできない。

本件行為の危険性の程度に関する事実認定次第では、控訴審の結論が変わる可能性もあり得るといえる。

イ ⅱ「骨折をするほどの傷害を負うことまで引き受けていないこと」について

 東京地裁が判示するとおり、通常、サッカーの試合に参加する者としては、「骨折をするほどの傷害を負うことまで引き受けていない」といえる。

 もっとも、選手が、きわどいタイミングでボールに接触しようとすることにより、反則行為をすることなく、相手選手を骨折させてしまった場合はどうであろうか。

 このような場合、怪我をした選手が「骨折をするほどの傷害を負うことまで引き受けていない」としても、東京地裁が判示するところのサッカーに内在する「スパイクシューズを履いた足同士が接触し、これにより負傷する危険性」が現実化したとの理由で、違法性が阻却される可能性は十分ある。

やはり、本件行為の危険性の程度が重要なキーポイントになりそうである。

 

7 最後に

本件事故は、サッカー社会人4部リーグの試合中に起きた悲惨な事故であり、今後、このような事故が発生しないよう大会主催者は対策を講じる必要がある。

そのためには、サッカー社会人4部リーグの趣旨・目的を明確にする必要がある。サッカー社会人4部リーグに所属している選手のなかで、現実的にプロになれる選手は皆無であるとすれば、同リーグの趣旨・目的は、サッカーという文化を広めること、サッカーを真剣に楽しむこと、サッカーを通じてチーム内外の親睦を深めることではないだろうか。

そうであれば、当該目的・趣旨に沿った試合運営が必要であり、疑わしい反則行為を積極的にファウル判定とする等のルール設定が必要であり、参加する選手側としても、当該目的・趣旨を理解した上でプレーすることが重要ではないだろうか(自戒の意を込めて。)。

 

 

 

2018/7/4                                 

弁護士 井神 貴仁

 

 

 


スポーツ団体のガバナンス

 

最近、力士の暴行、コーチのパワハラなど、スポーツ業界における不祥事の報道をよく目にします。このような不祥事が続くと、そのスポーツ自体の評判が悪くなってしまい、スポーツ人気が下降しスポーツ人口が減ってしまうなど、様々なデメリットが生じてしまいます。

このような不祥事は、そのスポーツの振興のための事業をやっている団体(以下では、「スポーツ団体」といいます。)自体の不健全性に起因することが多いです。たとえば、公益財団法人全日本柔道連盟における経理が杜撰であったため、助成金の不正受給が起きてしまったり、公益財団法人日本相撲協会が講じる再発防止策が不十分なために力士による暴行事件が繰り返されてしまったりしています。

スポーツ業界の不祥事を未然に防ぐという意味で、スポーツ団体の「ガバナンス」は大変重要な意味を持っています。そして、有益な「グッドガバナンス」を実現するために、弁護士等の外部の有識者が関わることは有効な手段といえます。このことは、スポーツに関するトラブルを公正中立に解決する法務大臣認証紛争解決機関たる公益財団法人日本スポーツ仲裁機構から公表された「スポーツ界におけるコンプライアンス強化ガイドライン」(http://www.jsaa.jp/ws/complianceindex.html参照)においても言及されています。

 

スポーツ団体の健全性を確保するために、「グッドガバナンス」を提供し、各スポーツの発展に尽力していきたいと考えています。

 

 2018/04/20

                                                                                         弁護士  小嶋 啓司


 

体罰の認識

 

 体罰に関するニュースが後を絶ちません。例えば,柔道女子の日本代表チームにおける体罰による指導だったり,2012年12月の桜宮高校の男子バスケット部のキャプテンが部活動での体罰を背景に自殺した事件など,痛ましいニュースにも接することがあります。

 ところで,指導者の方には,率直に,何が体罰で,何が体罰でないのか分からないという感想をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 また,自分も「しごかれて」強くなった,自分を強くしてくれたその「しごき」に感謝している,このような思いをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 平成25年2月5日には,当時の文部科学大臣が,「スポーツ指導における暴力根絶へ向けて」と題するメッセージを発表しています。

 そこには,「スポーツ指導者に対し暴力根絶の指導を徹底するとともに,スポーツ指導者が暴力によるのではなく,コーチング技術やスポーツ医・科学に立脚して後進をしっかり指導できる能力を体得していくために,スポーツ指導者の養成・研修の在り方を改善することが大切だと考えます。」とあります。

 まずは,現代における体罰に関する正しい知識を取得することが重要と思います。ご要望があれば,研修の講師等も賜りますので,お気軽にご連絡ください。

 

2018/05/11

弁護士 兼村 知孝